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プロジェクトストーリー

一人ひとりの仕事がつないだ「むぎちゃん」完成までの軌跡

K.Y.
営業本部 営業一部 執行役員 東日本営業本部長/2005年入社

本プロジェクトの発案者。家庭での麦茶作りの手間に課題を感じ、営業視点と消費者視点の両面から新商品を起案。販売戦略や販促物の決定など、商品がお客様の手に渡るまでの全般を統括した。

T.T.
商品開発本部 マーケティング本部 係長/2023年入社

前職でのデザイナー経験を経て入社。本プロジェクトではプロダクトデザインと開発進行を担当。「使うたびに心地よい」デザインと、電子レンジや冷蔵庫に収まる機能性の両立を追求した。

K.H.
古河工場 生産管理部 部長/2009年入社

開発と工場の間に立つ「DR(デザインレビュー)」の窓口を担当。デザイナーの意図を汲みつつ、工場での量産性を考慮した現実的な設計へと落とし込む調整役を担った。

H.I.
古河工場 生産技術部 課長/2006年入社

金型設計および生産設備用治具の設計を担当。デザイナーが描く繊細な曲線を、ガラス成形で再現するための金型調整に尽力。品質と生産効率を両立させる技術面での要。

A.Y.
古河工場 生産部 加工課/2021年入社

ガラス本体に取っ手を付ける「自動柄付機」の管理を担当。本製品特有の太く長い取っ手を、美しく強固に溶着させるための繊細なバーナー調整を行い、安定生産を実現した。

OVERVIEW

2024 年に発売され、ヒット商品となった「レンジでかんたん麦茶ポット むぎちゃん」。その開発の裏には、家庭での悩みを解決したいという営業担当の強い想いと、デザインの美しさを追求する企画開発、そして困難な形状を量産化へと導いた工場の技術者たちの連携があった。部署や拠点の垣根を越え、一つのチームとして挑んだモノづくりの軌跡を 5 人のメンバーが語る。

01:営業の「素朴な悩み」から始まった、前例のない麦茶ポット開発。 02:「できない」とは言わない。デザインの理想を工場の技術で現実へ。 03:バーナー調整の格闘。職人技が支える「むぎちゃん」の品質。 04:予想を超える大ヒット。お客様、そして家族に誇れる仕事。

01:営業の「素朴な悩み」から始まった、前例のない麦茶ポット開発。

K.Y.:開発のきっかけは、私自身の家庭での悩みでした。共働きで家事を分担しているんですが、夏場は小学生の子どもが毎日水筒を持っていくので、麦茶作りがとにかく追いつかないんです。煮出すのはいいとしても、冷ますのに時間がかかる。「もっと手軽に、すぐにできる方法はないか」と考えたのが始まりでした。

T.T.:K.Y.さんからその話を聞いたとき、これまでの開発案件とは熱量が違うなと感じました。通常は他社製品の動向などを見て企画することが多いですが、今回は「営業主体の強い想い」が起点になっていたので、私も「これは何とか形にしたい」とモチベーションが上がりましたね。

K.Y.:営業的な視点でも、当社のガラス製冷水筒(縦ながのポット)は長年大きな変化がなく、市場でのシェアも少し厳しくなってきていました。だからこそ、これまでとは違う「新機軸」の提案が必要だと感じていたんです。ただ、当初のコンセプトはいきなり覆されましたよね(笑)。

T.T.:そうですね(笑)。最初は「麦茶パックを水に入れて電子レンジで加熱する」想定だったんですが、調べてみると麦茶パック自体がレンジ加熱NGだということが判明して……。

K.Y.:あれは焦りました。でもそこで諦めず、「少量のお湯をレンジで沸かして濃い原液を作り、そこにパックを入れて、最後に水で薄める」という方法に変更しました。結果的に、これなら時短でおいしい麦茶ができると確信しました。

T.T.:機能面での制約も厳しかったですよね。ミッションは「電子レンジに入ること」と「冷蔵庫のドアポケットに入ること」。私は実際に定規を持って量販店に行き、いろんな冷蔵庫やレンジのサイズを測りまくりました。

K.Y.:私のリクエスト、かなり無茶だったと思います(笑)。

T.T.:制約があったからこそ、あのデザインが生まれたんです。高さを抑えつつ容量1リットルを確保するために、底面を丸く広げ、まるで水が入った袋が重力に逆らって持ち上がったような、独特の美しいフォルムに辿り着きました。

02:「できない」とは言わない。デザインの理想を工場の技術で現実へ。

K.H.:T.T.さんから図面が上がってきた時、正直「これは難しいな」と思いました。特にこだわりの「丸み」のある形状は、ガラスの成形で再現するのが非常に難易度が高い。さらに当初のデザイン案では、注ぎ口が特殊な形状(特殊注口)になっていて、これだと量産時の再現性が乏しくなる懸念がありました。

T.T.:そうでしたね。でも、K.Y.さんをはじめとした工場のみなさんは、決して「できない」とは言いませんでした。

K.H.:それはHARIO全体に根付いている文化ですね。難しいけれど、「じゃあ、こういう形状ならデザインを活かしつつ生産できますよ」という代替案を出すのが私たちの仕事です。今回も、注ぎ口については通常の加工方法でも機能と美しさを満たせる形状を提案させてもらいました。

H.I.:金型の設計もシビアでしたね。T.T.さんの描いた図面には、ガラス製品特有の「継ぎ目(パーティングライン)」を極力見せないような、強いこだわりの曲率(カーブ)がありました。

T.T.:はい。通常は側面と底面の境界に線が出やすいのですが、つるんとした一体感のある佇まいを目指しました。

H.I.:その意図を汲み取って、金型として成立させるために微調整を繰り返しました。デザイン画をそのまま金型にすると、ガラスがうまく流れなかったり、抜けなかったりする。T.T.さんと2~3往復やり取りをして、細かく角度や位置を調整し、成形のしやすさとデザインの美しさを両立させる落としどころを見つけていきました。

K.H.:通常は相反することもある「デザイン」と「製造」ですが、今回は「なぜこの形状なのか」という目的やコンセプトを最初にしっかり共有できていたので、同じ方向を向いて走れましたね。

03:バーナー調整の格闘。職人技が支える「むぎちゃん」の品質。

T.T.:もう一つ、私がこだわったのが「取っ手」です。レンジで加熱して本体が熱くなっても手が触れないように、あえて本体から距離を取った、太くて長い取っ手を採用しました。

A.Y.:あの取っ手を見た時は、「これは大変だぞ」と覚悟しました(笑)。私は取っ手を溶着する自動機の管理をしているのですが、ここまで太い柄材(ガラス棒)は今まで扱ったことがなくて。

H.I.:ガラスの溶着は本当に繊細なんです。本体と取っ手、それぞれのガラスが適切な温度で溶けていないと、うまくつかなかったり、冷めた時に「クラック」というヒビが入って取れてしまったりする。

A.Y.:そうなんです。今回は柄材が太い分、火力が弱いと十分に溶けず、強すぎると本体が変形してしまう。機械の切り替えを行った初日は、ずっとバーナーの火力を調整していました。

K.Y.:細かい調整を重ねてくれていたよね。

A.Y.:「これだ!」という安定した火力のポイントを見つけた時は、本当に嬉しかったですね。加工課では、良い品質のものを作るために一切妥協しないのが当たり前になっていますから。

H.I.:A.Y.さんのように、機械のセッティングから調整まで一人で完結できる方は加工課でも稀有な存在です。彼女の粘り強さと技術があったからこそ、この特徴的なデザインが量産できたと言っても過言ではありません。

K.H.:最初は手作業の工程もありましたが、売れ行きが好調で生産が追いつかなくなり、すぐに完全自動化へと増産体制を整えましたよね。現場が「手動じゃ間に合わない、自動化しよう」とスピーディーに動いてくれたのも大きかったです。

04:予想を超える大ヒット。お客様、そして家族に誇れる仕事。

K.Y.:発売後、おかげさまで「むぎちゃん」は予想をはるかに超える大ヒットとなりました。初年度の販売計画を軽々と超え、急遽増産をお願いすることになりましたが、本当に嬉しい悲鳴でした。 

T.T.:「むぎちゃん」というネーミングも良かったですよね。K.M.さんが名付け親ですが、社内でも話題になりました。

K.Y.:インターネットで検索されるワードを調べると「冷水筒」より「麦茶ポット」が圧倒的に多かったんです。ならいっそ「麦茶」に特化した名前にして、親しみやすさを出そうと。

A.Y.:工場でも「むぎちゃん」という名前は愛着を持たれてますよ。実は、工場のファミリーセールで母にこの商品を見せて、「これ、私が機械調整してるんだよ」って自慢したんです。そうしたらすごく喜んでくれて。お客様からも「これ工場で作ってるの?」と聞かれることがあって、自分が携わった製品が世の中で愛されているのを実感して嬉しかったです。

T.T.:私もレビューなどは常にチェックしていますが、お客様に満足していただけているのが何よりのやりがいです。

H.I.:自分たちが苦労して金型を作り、調整した製品が、こうして数字としても結果を出し、増産されるまでになる。技術者としてこれ以上の喜びはありません。

K.Y.:発売して終わり、ではありませんからね。2年目を迎える今も、より多くのお客様に届けるために、バイヤーさんと相談して販促物を改良したり、SNSでの発信を強化したりと、「お客様へ商品を届けるための努力」は現在進行形で続いています。

K.H.:そうですね。これからも工場は、営業や開発の想いを技術で実現し続けていきますよ。

K.Y.:HARIOには営業だけでなく誰でも新商品のアイデアを出せる風土があります。もちろん、ただ提案すれば通るわけではありません。社内の公募にエントリーし、厳しいプレゼンや審査という「関門」を突破して初めて、商品化のゴーサインが出るんです。今回のプロジェクトのように、一人の「あったらいいな」という想いが、部署を超えたプロフェッショナルたちの手によって形になり、多くの人の生活を便利にすることができる。それが当社で働く一番の醍醐味だと思います。